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特技はフットワークの軽さの(24)。読書と旅行と音楽と写真が好きです。主に東海・近畿をうろちょろしています。

小川洋子『密やかな結晶』を読んだ そっと自分の思い出を抱きしめたくなる1冊

おそらく中学生の時に親のを勝手に借りて読んだ小説です。たまたま図書館で手に取り、遠いデジャブみたいなものを感じながら読んでたのですが、今検索してみると2018年2月から石原さとみ主演で舞台化されるそうです。知らないうちにタイムリー。 

タイトルデザイン素敵。じわりと消える感じが物語に似合ってます。

 

密やかな結晶 (講談社文庫)

密やかな結晶 (講談社文庫)

 

 

 

 

あらすじ

 

『妊娠カレンダー』の芥川賞作家が澄明に描く人間の哀しみ。記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、現代の消滅、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。(講談社文庫)
 
 

 Key pop

ある朝目が覚めたら、何かが消滅している世界
主人公のわたしが住んでいる島は、ある朝起きたら何かが消滅している世界。たとえば、エメラルドや鈴、香水のような「もの」が人々の記憶からある日突然消えてしまいます。消滅したものを人々はものとして認識できず、価値のないものとして埋めたり捨てたり燃やしたりして自分たちの生活から遠ざけ、今周りにあるものを利用して生活を築いていきます。
この世界に浸透しているのは消滅への静かな受容とあきらめ。
どんなに大切にしていたものでも、あるいは仕事に関するものでも、消滅してしまえば人々はそれをいともあっさりと手放します。その執着のなさは読んでいるこちらが悲しくなるほど。
 
記憶が消えない人の悲しさと希望
主人公の母のように島に消滅が起こっても、ものの記憶を失わない人もいます。彼らは異端として秘密警察なる警察組織に追われ、隠れ家や知り合いの家に身をひそめています。
わたしの家にもそんな記憶を失わない人が一人隠れることになるのですが、その人と記憶が消えていくわたしの違いがどんどんくっきりと表れてきて、とても切なくなりました。
みんなが静かに消滅を受け入れる中で、主人公の記憶が薄れることを食い止めようとする彼は痛々しいですが、この物語における唯一の希望だと思います。

 

思い出が人を形作る

消滅が起こるたびにものに関する記憶=思い出が少しずつ消えていく主人公は、そんな自分たちを心が衰弱していっていると悲観します。何か懐かしいものを見てもそれに対して何の感情も持てないことは、悲しい。心を失っていく主人公たちが哀れだけど、どこか他人事ではない痛みも感じます。

この小説を読んで、今の自分を作っているのは過去の経験や思い出なのだと思いました。

眠れない夜、静かに消えてしまいたくなるに夜におすすめ。大切な記憶をもう一度取り出してながめたくなる一冊です。